MKVcd 幻想交響曲 第1楽章「夢、情熱」

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第1楽章「夢、情熱」 (Reveries, Passions)

シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団

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第1主題の中です。この主題が恋人を表したイデー・フィクス(idee fixe)という「固定観念」のことで、この作品中に何度も出てきて話しを進行させていきます。イデー・フィクスはその後ワグナーの作品ではライトモチーフとしてその手法が完成し、後のリヒャルト・シュトラウスなどにもそのまま受け継がれていく代表的な作曲技法となりますが、そうした起源がこの幻想交響曲だとする見方は自然です。

確かにベートーベンなどでもそうした面は見られるのですが、しかしそもそも主要な主題やモチーフを作品(または作品群)に共通して登場させる手法はバッハやラモーなどの大曲で知られるように古来からあり、作品としての統一感を出すためにも必然的な方法として普通に使われていました。特にオペラなんかだと顕著ですが、そうした部分をベルリオーズが十分に研究し、これまではそうした使い方がされてこなかった交響曲の要素として取り入れ、具体的に実現してみせたという功績は高く評価されるべきだと思います。

ミンコフスキ指揮 マーラー室内管 ノリントン指揮 ロンドン・クラシカル 小澤征爾指揮 ボストン響

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ここで最初から3小節間の低弦に指示されている p の後の松葉閉じ(のような)指示ですが、これが最初の音に対するアクセントなのか、あるいは四分音符2つに対する松葉閉じなのかという問題がこの曲にも存在しています。さらに楽譜やパート譜によってそれらの解釈が違っていることもあり、そうしたことがこの些細な問題をより複雑にしているのですが、現実的にオケの実演としては、そうしたどちらかに表現を統一していくようにするしかないのでしょう。

このようにやや曖昧な部分もある一方、この作品にはオーケストレーションとしてかなり凝っている部分も多く、その点がやはりベルリオーズ作品の大きな魅力ともなっています。ここでは真ん中あたりで弦が cresc しながら上昇して ff になりますが、その直前に第1バイオリンだけが休符になります。そしてその流れをフルート(Fl)が受け継いでいるのですが、さらにその3小節先でも第1バイオリンと第2バイオリンは似たような譜面に見えるものの、よく見るとちょっと違います。

ついでに言えばチェロ(下から2段目)とその下のコントラバスのパートは全然違うもので、その点でも古典作品との違いが決定的になっています。

クリュイタンス指揮 フィルハーモニア管 レヴァイン指揮 シカゴ響(反復) ムーティ指揮 フィラデルフィア管

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第1主題群と提示部が終わるところです。4小節目に ff になりますが、その後の流れはパートによって松葉開き閉じと sf が付いているのといないのとがあります。また普通に弾いているとリピートに向かって自然に dim してしまうのですが、しかし少なくとも第1バイオリンなどの主旋律や後打ちの伴奏には dim や松葉閉じと見られる指示は特にありません。

そのリピート(反復)については伝統的に省略される演奏が主流だったようですが、しかしそのリピート記号の前には第1カッコが2小節あります。これはリピートしない限り弾けないので、最近ではここで素直にリピートして完全に演奏する場合も増えてきました。

個性的な演奏の例としては、ここで反復もしているムーティ指揮 フィラデルフィア管弦楽団の演奏の中で、譜例の2小節目から上昇してくるビオラとチェロ(下から3段目、2段目)についているスラーが無いように聞えます。こういうのは珍しいですが、確かに速めのテンポだとかなり効果的に聞えます。

バーンスタイン指揮 フランス国立管 クーベリック指揮 バイエルン放響 マルケヴィッチ指揮 ベルリン・フィル
メータ指揮 ロンドン・フィル

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続きでリピートの先です。ここからが展開部ということになりますが、ここで弾いている低弦(ビオラ、チェロ、コントラバス)の旋律に、同じバスパートのファゴットが加わっていません。それは何もここだけではないのですが、このように弦楽器と木管楽器を明確に使い分けている点もベルリオーズの大きな特徴の一つと言えます。そのファゴットは譜例で右の方になると突然加わってきて、ここから音色的にも劇的な変化を加えるようになっています。

ミンコフスキ指揮 マーラー室内管 ノリントン指揮 シュト放送響 ノリントン指揮 ロンドン
ケーゲル指揮 ドレスデン・フィル メータ指揮 ロンドン・フィル ミュンフン指揮 バスティーユ管
オーマンディ指揮 フィラデルフィア ロジェストヴェンスキー指揮

同じ部分ですが少し進んでいます。ここで右の方に「9」がありますが、これに向かって cresc していくと共に多少加速していくタイプの演奏もあります。そしてその「9」ですが、ここで f になる弦楽器はこの楽譜のままだと実にシンプルで良さそうなのですが、しかし特に強拍にある四分音符をスタカート気味に弾くか、テヌート気味に弾くかで古典作品は分かれるものです。

とはいえこの音形は同じことを4小節も繰り返すため、さすがにテヌートという訳にはいかないでしょうけど、かといってスタッカート(マルカート)と断定するのも勇気がいるのか、結果的にはどちらともとれる普通の演奏が多いようですが、思い切ってスタッカートで爽快に演奏している場合も多く、また逆に四分音符の長さを生かしたタイプの演奏も効果を上げています。なお変わり種としてはロジャー・ノリントンの新旧各盤で聴ける、一旦 dim してからcresc していくというタイプもあります。

それとこの場面では第1、第2バイオリンに f と松葉閉じ(またはアクセント?)、直後に p という細かい指示が連発していますが、ここは何となく求められていることも絞られてくるので構わないでしょう。逆に低音では恋人の主題の一部がバッソ・オスティナートのように繰り返されていますが、これらにも毎小節に松葉開きが連発していて、例えばズービン・メータ指揮 ロンドン・フィル盤のようにこのバス声部を丁寧に出しているものもあります。

スクロヴァチェフスキ指揮 ザール放響 カラヤン指揮 パリ管弦楽団(1971) インバル指揮 フランクフルト放響

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この展開部の中にはブルックナーもびっくりの劇的なGP(ゲネラルパウゼ)があります。右端にある G・P 3は3小節間の休符のことです。ちなみにフェルマータ記号はありません。あくまでも3小節の休みです。

この部分には accel(加速)がかかっているので、それに加えての cresc、しかも molto(かなり)ということで、非常に劇的な盛り上がりが求められています。

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